Messageご挨拶
日本において総合診療医の教育と人材育成は、地域医療の持続性と質の向上の鍵を握る重要な課題と言われていますが、なぜ今、総合診療医、なのでしょうか。背景には、いくつかの社会的要因が考えられます。第一に、人口の高齢化に伴う多疾患併存、ひとりひとりの疾病構造の複雑化です。日本は世界でも類を見ない速度で高齢化が進行しており、75歳以上の後期高齢者が人口の約15%を占めています。高齢者の多くは複数の慢性疾患を抱えており、単一疾患の専門的治療だけでは対応しきれないケースが増えています。総合診療医は、患者の全体像を捉えた医療を提供する立場として、今後ますます必要とされる存在です。第二に、地域医療の担い手不足と医師の都市集中傾向です。地方・中山間地域では医師の偏在が深刻であり、特定診療科に偏った診療体制では地域住民のニーズに応えきれません。総合診療医は、幅広い疾患に対応できる柔軟性と、地域に根ざした視点を持つため、へき地・地域医療の基盤を支える中心的な役割を担うことができます。第三に、「かかりつけ医」機能の強化と地域包括ケアの推進です。すなわち、入院から在宅医療までシームレスなケアの提供が今求められています。総合診療医は、診療所・中小病院・在宅医療を横断するコーディネーターとして不可欠です。総合診療医の育成は、単なる一分野の拡充にとどまらず、日本の医療の将来像を形作る国家的課題です。専門性と全体性のバランスを兼ね備えた医師を育てることで、「地域で暮らし続けられる社会」の実現に大きく寄与することが期待されています。
このように、現在総合診療医の社会的ニーズは高まっており、今後もますます高まることが予想されますが、総合診療医人材育成体制にもいくつか課題があります。2018年に開始された新専門医制度では「総合診療専門医」が基本領域のひとつと位置づけられ、制度的な整備が進められています。しかしながら専門研修プログラムのばらつきや認知度の不足、外科専門研修における手技習得のようなわかりやすいスキルアップ実感を得にくい、などの理由から、志望者数は未だ限定的です。教育・研修の質と魅力を向上させ、キャリアとしての明確な道筋を提示することが急務です。
一方、外科系や内科系など他の専門領域から、より柔軟で地域密着型の医療への転向を望む医師も増えつつあり、セカンドキャリアとしての総合診療の魅力を高める再教育の場の整備も求められています。
そこで私たちは、他領域の医師の総合診療医へのキャリアチェンジ、若手総合診療医のスキルアップを容易にするため、医師として「働きながら」実際の総合診療の臨床現場で必須とされる臨床推論力の向上を目指す症例検討型の教育プログラムを提案します。
東北大学院 総合地域医療教育支援部
教授 石井 正
ProgramPGの内容および特徴
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臨床力向上のための
e-learningコンテンツ東北大学医学系研究科 総合医療学分野で保有している総合診療教育のための録画講義コンテンツ、対話形式の臨床推論動画コンテンツが視聴可能です。これにより臨床力向上を図ります。
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外部招聘講師によるセミナー
全国で総合診療の臨床推論エバンジェリストとして活躍している松本謙太郎先生等による実践型セミナーです。これに参加し、臨床推論のプロフェッショナルの思考を学びます。
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症例検討実習
毎週金曜日に当教室で実施している新患症例検討カンファレンスに参加します。実際の新患症例についてどのような思考で診断を推論し診療方針を決めていくのかについて学びます。
希望に応じて実際の東北大学病院・総合診療科外来診療への参加も可能です。 -
日本病院総合診療医学会
指導医資格取得サポートアドバンスコースとして、上記指導医資格取得要件となる査読付き論文発表について、伴走型のサポートを行います。